可能であれば、刀身に反射する光は見たくなかった。
とりわけ夜の江戸、得体の知れない灯りの散乱する時。
白くちらちらと目障りで沖田の気を波立てる。
眩しさに目がくらむ。
同時に駆り立てられる―殺気だ
殺気は生まれたからには、なにかに突き立てられる。
そして黙って骸に思う。
お前の世界がこうして終わってしまっても、俺の世界はずっとずっと続いていくのだ。
しかし希望とは限らない―勘違いしてはならない。
斬り合いを終えてからどれだけ経ったのだろう。
とにかく人のいない方へと進んでいった。
土方は理由を尋ねなかった。かといって、気にならなかったわけではないらしい。
不干渉を装ってるような眼に無性に腹が立ち、無視して姿を消した。
細い小道の砂利が鳴る。
あの鈍いようで尖った光を消したくて、刀を振るっているのだとしたらすなわち狂気だ。
鮮血で光を封じ、殺してしまいたい衝動であることを、妙に冴えた頭は否定してくれない。
背筋が寒くなる感覚は、夜の冷気のせいでもない。
沖田は腰の刃物を手に取り、抜いてみる。
人斬りの道具でしかないこれを、美しいと云えば忌まれるだろう。だがそう思うことは間違っていない。
美しいか不気味かのどちらかでしかない。そう思うことで人と剣は互いに存在できる。
しかし憎らしいなどと思ってしまえば、均衡は崩れ、戻れない道へ足を踏み出してしまう。
刀に侵されたくない境界を守らなければまともに生きられない。
ああ月夜はいけねェ、と声に出して言い、目を閉じ全てを拒絶する。
唯一思い浮かぶのは、あの娘。
同じようにあれの傘は、光を遮る。しかし影を守っているわけでもない。
沖田の目にはあれが影にはとても見えない。
ならば光源か?
あれの世界は自分の知らないところにあるようで、よく見えないし見てはいけない気がしていた。
沖田は目を開き、刀は鞘に収めた。
月明りさえ眩しい。光を嫌う自分は、やはり影なのだろうか。
しかしどうしても、あれは嫌いになれない。
緩く流れる川の、水面に月明りが躍る。思い切って飛び込んでしまいたかった。
03:君の世界がこうして終わってしまっても、僕の世界はずっとずっと続いていく。
(一人称・二人称変更適応)