せ か い の お わ り に
た ち あ い た い の さ !
愚かしいと曇らせた表情の裏で、桂が笑う。
睨んだ眼の裏で、高杉が苦笑する。
すきにしろよ。
ああ謂われるまでもない。
顎に手を当て口の端だけを上げて顔を歪めるように笑う癖は、昔から変わっていない。
それよりもこの真昼間、お天道様が煌々と照らす中でよもやこのような会話が交わされているなどと誰が思おうか。
何よりもそれが桂には滑稽であった。
日光を遮る粗末な笠を申し訳程度に被っているだけのお尋ね者が、だ。
包帯の象徴であろう清らな白さは、彼の許では意味を成さない。紅の着物が無理に色彩を放つ。
冷静に考えても、こんな派手な格好の人間と居ることは自殺行為である。
しかし早めに切り上げたいかといわれるとそうでもない。
懐かしさというより、退屈しのぎに近い。
何か、考えがあるのか。
少しばかり イヌ に構ってやろうと思ってな。
また笑う。今度は至極楽しそうで、少し驚く。
よほどいい獲物が見つかったのだろう。
一見、久しぶりに逢って変わってたように見えるが、そうではない。
銀時の言ったとおりだ、と少し息を吐く。
ただ高揚感の中毒になっている。思えば元々そういう奴だった。
知恵を働かせて事を動かす自分とは、根の部分から違っていたのは判っている。
理解は無用だ。桂は、この男が幾ら殺戮を行っても何ら感情を動かさない。
守るということを理解しない高杉に比べ、守ることを理解して行動しない。
一方で一種似たようなものを持っているとも思っている。
うまく順応しきれない不器用さを、信念を通すと理由付けして生きている。少なくとも桂はそう感じていた。
両者は互いを視界の端にかろうじて入れたままで、黙っている。
師走の世に取り残された空間に、ただ冷えた日が照らす。
昔の仲間の話はしない。二人の間では滅多に出てこない。
出てきたとしても、それは「過去を引きずった」仲間である。
過去話をしないということが、囚われていないと同義ではない。この男を居るといやでも思い知らされる。
計画は、と言いかけてやめた。
喋るわけがない。有無さえごまかすのなら、聞くことさえ無駄だ。
本能のままに策を練り、運と力でねじ伏せるやり方は神掛かってさえいる。本人に言ったら笑われるだろうか、怒るだろうか。
高杉、お前の面をまともに見るのは、今でも少し辛いんだ。
眼を逸らすことは根本的な裏切りだと判っていても、それでも辛い。女々しいと詰ればいい、と割り切る潔さもない。
彼の存在は、「生きるが勝ち」の単純明快さを体現しているように見えて、自ずと死へ転がっていく。
一蓮托生から一度は外れてしまっても、簡単に絶てる間柄ではないことを桂も承知していた。
覚悟を決めて視線を動かす。
世界を終わらせて、始まりを見せてやる。
今度は半ば愛おしむように。眼は宙を確実に見ている。
終わりなど、何故今更。世界なんて誕生した瞬間から崩壊しているのに?
馬鹿らしい。
桂は地に視線をぶつける。
完全な世界など存在せず、ただその欠陥をいいように弄繰り回しているだけだ。
世界は終わらない。そして中毒は一生、死ぬまで治らない。
お前の眼はもう何も映さない!
達者でな、とは言わない。
されど、死なねばいいと思い、背を見送る。
04:終わりなど、何故今更。世界なんて誕生した瞬間から崩壊しているのに?