細足から繰り出される強烈な蹴りや、軽いな身のこなしより、
つかんだ腕の細さに僅かな驚きが生じる。
思わずなかったことのように手放せば、怪訝というより不思議そうに見られる。
さっきから背後から大きい声が聞こえるような気がしたが、どうでもよかった。
この瞬間、あれの吐いた言葉なんか俺にとっては大した意味を持ち得ないんだ。
余所見はいけませんぜ
上等ネ
地を蹴る音、のち、爆音。
門をくぐればお帰りなさいと呑気な声が聞こえた。
いつものラケット片手に素振り、貴重なシャトルは古木の上に。
そういうものに興じられることを昔は少しうらやましいと思ったような気がしたが、今はどうでもいい。
副長は一緒じゃなかったんですか、と問われ、そういえばその記憶も曖昧なことに気づく。
どうだったかねェと返せば一つため息をつく山崎を見て、帰ってきたら一発仕掛けてやろうとぼんやり思う。
沖田の一発は一発なんてかわいいもんじゃない。しかし少なくとも沖田にとっては一発だ。
薄青い空に薄ら雲。天気がいいんで洗濯物が乾いていいですよ、と山崎が笑う。
沖田は山崎、ちょっとこっちきなせェと手招きし、掌を上にして平手を差し出す。
お手、と云う声と同時くらいに握り手がのる。
沖田はその軽く握った手の手首を下から掴み、少し上に持ち上げる。
ぎゃあ何ですか!
自分からやっといてぎゃあとは土方さんも躾がなってませんねェと、山崎の本体を無視する。
細い。もっとも掴んでいる自分も同じぐらい細い。
しかしなるほど、筋ばったものだ。骨は決して細いわけじゃなく、身が薄いのだ。
納得したようで腑に落ちない表情のままぱたりと掴んでいた手首を離す。
更に腑に落ちないのは山崎だ。しかし深くは追及はしないだろう、相手が沖田なら尚更だ。
お茶淹れてきますよ、とラケットを松の幹に器用に立てかけ、屋内へ駆けていった。
沖田はそれを握ってみる。更に細い。しかし刀の柄がそうであるように、娘のものとは異なる。
難しいもんですねェと呟くと、何がだと不機嫌な声が返ってきた。
後ろを振りかえるとそういえば行方不明の土方だった。
どこほっつき歩いてきたんですかィ?
てめぇこそ職務中に格闘おっぱじめるんじゃねぇ!
目くじらを立てる土方はいつものように無視、沖田はぼうっと宙に視線を泳がせる。
薄ら雲がのろく動いている。
山崎が盆を手に戻ってきた。同時に、それまでしばらくの間音という音を聞き入れていなかったことに気づく。
あ、副長おかえりなさい、と自分用に淹れたであろう茶を、さも当たり前のように土方の脇に置く。
もう一杯と菓子を沖田の方へ置く。
茶はいつもの茶だ。そしてそれなりに、温かい。
07:君の吐いた言葉なんか僕にとっては大した意味を持ち得ないんだ。
(一人称・二人称変更適応)