朝一番、夜勤明けの疲れを引きずったまま報告に行くと、覚悟はしていたが顔やら身体やらを強かに殴打される。
反射というのは良く出来たもので、舌を噛むまいと、痛みに耐えようと歯を食いしばるべき瞬間を身体が熟知している。
何時からこうなってしまったのだろうと思い返すも、記憶は朧げでもしかしたら思い出すべき事ではないのかもしれない。
山崎監察、頬ンとこ痣になってますよ、と篠原に云われた。
朝の話。
暗く人気のない倉庫ではあるが、まだ陽は天に昇っている時刻。
だからすっかり殴られる覚悟で迫られたものの、その開いた瞳孔の宿す不穏さに気づかない程阿呆でも無い。
そして拒む権利も無い。
両手を束ねられ、身体ごと壁に叩きつけられると山崎の表情に僅かながら反射的な怯えが滲んだ。
長居はなるたけ避けたい蒸し暑く黴臭い倉庫の中で、前戯など碌になかろうという予想は裏切られず、
正に貪るという表現が適切であるくらい荒々しい行為。
受け入れる一環はいつまで経っても慣れず、小さい呻き声を作りそれが相手を悦ばせることを山崎は知っていた。
そんな自分のあざとさは自覚しているが、抑える術も知らない。汗ばんだ指先で土方の着物の背を辿る。
それからは記憶が曖昧になる。
一つ覚えているのは、殴られる瞬間と絶頂に達する瞬間、ソレとコレとは似ていると思考の途切れがちな頭で思った事だけ。
声を抑えるという建前のもと、快楽に耐えようと奥歯に力を込める。
山崎監察、何処いってらしたんですか、と吉村に問われた。
昼の話。
話がある、部屋に来いと低音が告げたのが夕方。
陽はすっかり落ちた頃、山崎は副長室に正座をしていた。
覆うように立ちはだかる男はその獣のような眼を向けてきたかと思えば、噛み付くような口付けをする。
噛み切るが如く激しさに恐怖と悦楽がない交ぜになる。息ができない。
しかしその間彼の手はひたすら優しい愛撫を続けている。いつもは痣しか作らない、その手が。
身体中の何処も彼処もが熱を持って、ズキズキと痛み出しそれはもはや快感と錯覚する程に。
痛い、紛れも無く痛いのはこころ。
歯を食いしばろうともやり過ごせない、救いようの無いモノ!
オイ山崎、何泣きそうな顔してんでさァ、と沖田に笑われた。
来たる、夜の話。